2月13日 雨の夜のカラス

2/13 PM10:00

昨日の暖かさが幻だったかのように

今日は雨も降ってとても寒い日でした。

ストーブにかけたやかんがシュンシュンと音を立てています。

きょうさんは、曇ったガラス窓にカラスの絵を描いてぼそっと言いました。

「こんな日は、きっと、誰もこないんだろうな。

寒いし、一人だし・・・

あれ、飲んじゃおうかな。」

 

お酒の瓶をカウンターに置いて眺めています。

 オールドクロウ アメリカケンタッキーのバーボンウイスキー

前から気になっていたんだよね。

やっぱり、テイスティング、大事だよね。

きょうさんは、大きな氷を丸くカットし始めました。

ようやく大きな丸い氷が完成しそうになった時に・・・

 

カランコロン・・・

バーキングのリーさんが入ってきました。

「こんばんは。今日はめちゃくちゃ寒いね。」

「いらっしゃい。雨まだ降ってた?」

「うん、少しね。」

 

「実はさ、きょうさんに味見してほしいものがあってさ。」

「何?リーさんが作ったの?」

「へへ。明日のバレンタインのチョコレート。」

「え・・・リーさん、誰かにチョコ渡すの?」

「いやいやいや。お店で出す用。」

「だよね。」

「何か、チョコレートを溶かして固めるだけっていうイメージだったんだけど

これが、なかなか奥深くてね。」

「ほお。」

「まずは、晩メシ頼む。夢中で作っててお腹すいちゃってさ。」

「了解。

今さ、一人で飲もうと思って準備してたんだけど

リーさんも一緒にどう?」

きょうさんは、グラスに出来たての丸い氷を入れて

リーさんに渡しました。

「おお。いいね。

これ、バーボン?初めて見たよ。飲んでみたいな。」

リーさんは自らグラスに注いで、そっと揺らしています。

「香りもいいね。バーボンっぽいスパイシーな香りじゃなくて

なんか、こう、そうだな。土の匂いがするような・・・」

「さすが、リーさん。そうなんだよ。

僕も初めて飲むお酒でさ、香りだけ味わったところ。

畑の匂いみたいだなって思ってたんだ。」

「あ、この氷、もしかして、きょうさん用だった?」

「いいよ、いいよ。何か食べるもの作るから、先やってって。」

「お言葉に甘えて。

じゃあ、飲みながら、きょうさん用に氷作ってるよ。」

 

お店の中では、やかんのシュンシュン沸く音と

リーさんがカツカツ氷を削る音だけで

静かな時の流れを告げています。

「氷、出来たよ。」

「料理も出来た。一緒にやろう。」

 

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海老とアスパラの春巻き

バーニャカウダ

 (うど、春にんじん、菜の花、ラディッシュ

チーズ焼きおにぎり

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「うまい。

きょうさんの料理ってさ、彩りがきれいで

目でも食べるって感じなんだよね。

しょうさんの料理は、ほんわかやさしい感じだし。

ほんと、フォレストダイニングの食事、最高。」

「ありがとう。

僕一人だと、ついつい食事をとらないで過ごしちゃうこと多いから

こうやって、誰かと話しながら飲めるのが嬉しいよ。」

 

「このバーボン、いけるよ。」

「どれどれ」

リーさんが作ってくれた氷をカラカラと回して一口。

「おお、この、とうもろこし感、すごいね。」

「うんうん。一日、畑仕事した後に、ゆっくり飲むのにぴったりな。」

「うまいこというね。」

「そうだ。俺のチョコも食べてみてよ。

絶対、合うと思うんだ。」

「どれどれ」

ピーカンナッツキャラメリゼをのせてみたんだ。」

「あうね。いけるよ。」

楽しい時間が過ぎていきます。

 

こんこん

「ん?誰か来た?」

「窓に雨があたってるんじゃないかな。」

「寒いから、みぞれになっちゃったとか。」

リーさんは窓から外をのぞいています。

「きょうさん、きょうさん。

すごいお客さんがきたよ。」

「え?」

きょうさんも窓からのぞいてみました。

「ベランダの手すりの所」

「本当だ。すごいお客さんだ。」

そっと窓を開けると

黒いカラスがまん丸の目で、首をかしげて、こちらを見ています。

 

「お入りよ。一緒に飲もう。」

窓を少し開けたままにして、

二人は席に戻って、また飲み始めました。

「くるかな?」

「どうだろ。気分が向けばくるかも。」

「このピーカンナッツ、窓の近くに置いといてやろう。」

リーさんは小さいお皿に入れて、そっと置いてきました。

 

「あいつの名前・・・さ。」

「もう、決まりでしょ。」

 オールドクロウ

二人で小さな声で言いました。

 

雨はもうすぐやみそうです。