8月16日 小さい秋みつけた

8/16 PM7:30

毎日、暑い日が続いていますが、

夜の風は少しだけ気持ちよく感じられます。

きょうさんは、風を入れようと窓を大きく開けました。

チ・・・チ・・・チ・・・ 虫の小さな声がきこえてきます。

 

「なんだか、気持ちいいね。」

カウンターでいかの肝焼きを肴に日本酒をのんでいる雑貨屋のきよしさんが言います。

「聞こえる?虫の声。声?かな。なんて言えばいいんだろうね。」

「聞こえる、聞こえる。いつの間にか季節が変わっている感じだね。」

今日のお客さんはきよしさんだけ。

のんびりした夜です。

 

カランコロン・・・

「こんばんは」

入ってきたのは図書館の白樺さんです。

「いらっしゃい。」

「あら、きよしさん、お久しぶりです。」

「こんばんは。白樺さんは早寝早起きだから、なかなか会う機会がないものね。」

「ふふ、そうね。

でも、今日は村中を回って歩いていたから、こんな時間になっちゃった。」

「食事、用意しますか?」

「お願いします。あ・・・これ。

図書館の裏の池で取ってきたんだけど、使える?」

「わお、すばらしい大きな蓮の実ですね。

ありがとう、さっそく使わせてもらいますよ。」

きょうさんは、食事の用意を始めました。

 

「きよしさん。お好きな服は?」

「へ。突然なんだい。お好きな服もなにも

この時期は、短パンTシャツのローテーションさ。」

「そうそう、ローテーション。

私も黒い服と赤い帽子のローテーションよ。」

白神が笑っていいます。

「実はね、今日は村をまわって「小さな秋」を見つけにいったのよ。

秋の七草集め。」

そう言って、かごに入った野草をカウンターに置きました。

「かわいい花だね。」

「オは、おみなえし。スは、すすき。尾花って言われているけど。

オスキナフクハ?って、秋の七草の覚え方なのよ。

ききょう、なでしこ、ふじばかま、くず、はぎ、で七つ。

今日は、すすきとききょうが見つからなかったけど、

こうして集まるとちょっとかわいいでしょ。」

白樺さんは、きょうさんに花瓶を借りて、野草たちを飾りました。

「なんだか、いいね。本当に小さな秋だ。」

「こんな日は、なんだかゆったりとしたくなっちゃってね。

今夜は、私にもお酒をちょうだい。」

「白樺さんと一緒にのめるなんて!楽しい夜になりそうだ。」

きよしさんは、ガラスのバケツで冷やしているお酒を

白樺さんのぐい飲みに注ぎました。

「きょうさんが取り寄せたお酒を試飲していたんだ。」

「9月のお月見の時にね。みんなで飲もうと思って。

発売前に1本だけ、まわしてもらったんだ。

朝日酒造の純米大吟醸「得月」っていうんだ。」

「あら、すてき。

すっきりして、ちょっと辛口で、食事にもあいそう。」

「お待たせしました。

土鍋でハスご飯を炊いてるから、食事はもうちょっと後でね。」

 

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焼きしいた

はもと赤ワインの煮よせ

加茂なす田楽

ハスご飯

ハスの実と白きくらげ、干し貝柱のスープ

自家製なめたけ

きゅうりの柴漬け

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「蓮の実も、小さな秋ですね。」

「きょうさんも、一緒にのもう。」

三人はテーブルの席に移って、乾杯をしました。

 

「このお酒、トクゲツって読むの?

お月見にぴったりだね。」きよしさんが言います。

「月っていえば・・・今日は新月の日よ。獅子座の新月。」

「白樺さんも詳しいんだね。」

天文台のもとおさんに教えてもらうの。

獅子座ってね、自己肯定の星座なんですって。

他人と比べて、自分をだめだって思うのはもうやめようって。」

「それって・・・大事だよね。」

「うん、大事。」

 

三人でまったりゆったり飲んでいると

涼しい風が通り抜けていきます。

風にのって

チ・・・チ・・・チ・・・ 小さな秋がきこえてきます。