2月6日 梅
2/6 PM2:00
カランコロン・・・
「いらっしゃい、さだはるさん。」
「こんにちは。ちょっと遅めのランチをとりにきたんだけど。」
「大丈夫ですよ。何かリクエストありますか?」
「うーん・・・」
さだはるさんは考え込んでいます。
「今日はあったかいですね。
少しずつ春が近づいてくるのがわかるようです。」
「本当に気持ちのいい日だね。
うちの果樹園にね、梅が何本かあるんだよ。」
「もう、咲きましたか?」
「まだ。
で、ぎんさんが教えてくれたんだけど・・・
梅の花って、咲く時に『ポンッ』って小さな音がするんだって。」
「ほんと?ポップコーンみたいだ。」
「僕もまだその音を聞いたことがなくて
今日は暖かいからきっと咲くと思って、午前中からずっと梅の木の下にいたんだ。」
「それでお昼ご飯、食べそびれちゃったのね。」
「そう。暖かいとはいえ、ずっと外にいるとやっぱり冷えちゃってね。」
「なにか温まるもの、作りますね。」
「ありがとう。お任せするよ。」
「ねえ、しょうさん。飛梅って知ってる?」
「知らない。梅の種類?」
「昔ね、家の主人にかわいがられていた梅の木の話。
主人が遠くに行ってしまった時に、悲しくて、会いたくて
一晩の内に主人の所へ飛んでいってしまったんだって。
なんか、いじらしくてさ。」
「そんなお話があるのね。
梅って、花の形もかわいいし、ほんわり香りもあるし
そのご主人もとても大切にしていたんだろうね。」
「うん。その梅がさ、咲くときに『ポンッ』って音がするなんて
聞いてみたくてさ。」
「私も聞いてみたくなってきた。
さだはるさんが家に戻るときに一緒に行く。」
「お待たせいたしました。
梅見にあわせて用意してみましたよ。」
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海老しんじょう すまし汁仕立て
梅生麩のバターソテー
黄ニラのみそ和え
鴨南蛮とそばがき汁
いちごと白玉のぜんざい
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「これは、これは。おいしそうだ。」
「鴨ロースが、薄ピンクに上手にできたのよ。
長ネギの素焼きも添えたから、
そばがき汁に入れて食べてみて。」
PM3:00
しょうさんは『外出中』の札をドアにかけて
さだはるさんと一緒に果樹園に向かいました。
果樹園の梅は、いまにも咲きそうにふくらんで
まんまるの手鞠のようになっています。
「もうすぐ、咲きそう。かわいい。」
その時です。
さだはるさんの目の前の梅が一輪、咲いていました。
「あ・・・咲いてる。」
「聞こえた?」
「いや、わからなかった。」
「ふふふ・・・」
『ポンッ』という音の代わりに、
どこかで笑い声が聞こえた気がしました。
「今の・・・」
「梅が、笑っているの・・・かな。」
「春が来たよって、笑って教えてくれているのかも。」
しょうさんと、さだはるさんは
顔を見合わせて小さな声で笑いました。
「さだはるさん。
もうすぐ2月14日だけど。今年もチョコレートのお菓子、作るの?」
「うん。今年はチョコバナナタルト。」
「やったあ。おいしそう。」
「14日には、みんなの家に届けに行くよ。
愛をこめてね。」
春はもうすぐです。