6月6日 梅雨入り

6/6 PM7:00

 

ピンポンパンポーン

「杉の木村のみなさん、こんばんは。

ニュースによると、どうやら梅雨入りしたということです。

今日も雨、明日も雨、

しばらく雨の日が続くようです。」

村の放送が流れました。

配達の仕事をしている、そんぽさんが放送しているので

なんとなく憂鬱そうです。

 

カランコロン・・・

入ってきたのはPCショップのれいこさんです。

雨に濡れて銀色に光っているように見えました。

「いらっしゃい。ぬれちゃいましたね。」

「こんばんは。

傘さしてたのにね。歩くの、へたなのかなあ。」

れいこさんは、さらさらヘアのとてもきれいな人です。

きょうさんから受け取ったタオルで髪をふいてカウンターに座りました。

 

「今日はね、雨だから。

きっと、もう誰も来ないと思って、お店閉めてきちゃった。」

「梅雨入りしたそうですね。」

「そうみたいね。

さっきのそんぽさんの放送、がっかりが伝わってきて笑っちゃった。

雨ってさ、嫌いな人多いと思うんだけど

私は、わりと好きなんだ。

がんばって何かしようって、思わなくてもいいよって

言われてるような気がして。」

「わかるような気がします。

飲み物は、いつものジンリッキーでいいですか?」

「うん、お願い。

あと、これ。谷中生姜?食べたい。」

 

「きょうさん、6月の誕生石ってなんだか知ってる?」

「いや、そうゆうことはまったく・・・」

れいこさんの話は、いつも唐突です。

「真珠。

でさ、真珠を取った後のアコヤ貝がどうなっちゃうのか心配で

調べてみたのよ。

なんか、ポイってされちゃってたら悲しいじゃない。」

「どうだった?」

「貝柱は食べられるみたいだし、貝殻の光っているところは

工芸品に使われているみたい。

ああ、よかったって、今日はちょっと気分いいの。」

れいこさんはちょっと不思議さんで、

返答に困るような会話になることがあるのですが、

最近わかってきたのは、れいこさんは返事が欲しいわけではなく

どんなことでも話すことが目的なのです。

だから、きょうさんは、鯵の南蛮漬けの仕込みをしていました。

「それおいしそう。」

「お出ししましょうか。」

 

外は暗くなって、静かに雨が降って、

時間がゆっくりと流れていきます。

れいこさんは、ゆっくりとジンリッキーを飲みながら

時々おしゃべりをしています。

 

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  谷中生姜 味噌添え

  空豆のツナ塩昆布和え

  鯵の南蛮漬け

  自家製コンビーフ ザワークラウト添え

  お茶漬け(梅干し)

  プチトマトのぬか漬け

  梅の甘露煮

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「ごちそうさま。おいしかった。

おなかいっぱい。気持ちもいっぱい。良い夜だ。」

「何でもない日に、いつもと同じように過ごすのって

なんか、安心していられていいですよね。」

「そうなの。

特別なイベントって、いつもの毎日があるから

すごく楽しくなるのよね。

何でもない日、バンザイだね。」

ちょっとだけピンク色の顔になって

れいこさんは帰っていきました。